ティエリアは墓標の前にライルと立っていた。
「名前、入れたんだな」
「ああ、一応な」
ティエリアが前にこの地へ来たときには刻まれていなかった名前が墓標に彫られていた。
「だいぶ前に、けじめや区切りの意味も込めてな」
ライルの墓標に刻まれる名前を見つめる顔をティエリアは見つめる。ライルの顔には過ぎ去った年月がしっかりと刻まれている。
「まさかここで会うとは思わなかった」
「そうだな」
ライルの言葉にティエリアは頷く。
エルスとの戦いの後、ティエリアは刹那と共にかの地へと行っていた。こちらへ戻るときにヴェーダに行き、肉体(うつわ)に意識を移して地上へと降りた。
まっさきに向かったのがここだった。途中で仕入れた情報でかなりの月日が過ぎていたことを知り、向かいながら変化した街並みを通りここへ来ると、先客がいた。
『相変わらず、綺麗なこった』
ティエリアを見るなり依然と変わらない口調で笑うライルがいた。
「お前はこれからどうするんだ?」
「僕はあの人が守りたかったものを守る」
「それは、兄さんのことか?」
ライルの言葉にティエリアは頷いて肯定する。ライルはしばらく黙っていたが、一つ溜息を吐くと口を開いた。
「それでティエリアは幸せなのか?」
「……幸せ?」
「ああ。イノベイドとしてのではなく人としてさ」
「人として……」
ティエリアに向けてライルは視線を投げてから再び墓標を見つめる。
「少なくとも兄さんはティエリアにそう生きて欲しかったはずだと思う」
「ロックオンが?」
ティエリアの問いにライルは頷く。
ティエリアの指すロックオンがライルの兄であるニールをいうことはライルも承知の上だ。
もちろん、ティエリアがライルをちゃんとロックオンとして見ているのもわかっている。
けれどティエリアが心から特別だと思っているのはライルの兄であるロックオン・ストラトス(ニール・ディランディ)ただ一人だと。
「双子だからなのか、そこはわかんないけどな。兄さんはそう思っていたに違いないんじゃないかってね。ティエリアを見てると思おうよ」
ソレスタルビーイングに入って、兄の最後や、その前にあったマイスターとの交流の話。
聞けば聞くほど兄はティエリアを特別だと思っていたんだと感じた。
自分の危険を顧みずにティエリアを庇った。
覚悟を決めてそういった組織に入った兄がそうやってでも守りたかった人。
そして人としてこの世界で幸せに生きて欲しいと願ったのだろうと。
「ただ、ティエリアにとっての幸せは兄さんだったわけだから難しいか」
不条理だよなと呟いて、一人で納得してしまったライルにティエリアは何が言いたかったのかわからず疑問符を浮かべる。
ティエリアはニールがいなくなった時点で、あの人が望んでいた世界、目指していた世界にするために必死で駆け抜けて、そちらに一生懸命になっていたと気付く。そしてライルに言われてティエリアは改めて考える。
あの人が投げかけてくれた言葉が胸をよぎる。
『四の五の言わずにやりゃあいいんだ。自分の思ったことをがむしゃらにな』
不意に頬をこぼれ落ちた涙にティエリアは慌てて目を押さえる。
居なくなってしまったことを改めて実感してしまい、ティエリアの目から止めどなく落ちる涙にライルがティエリアの頭を撫でる。
「兄さんを思ってくれて、ありがとう」
この世で一番あの人に似ている人によってもたらされる温もりにティエリアは少し甘えた。
「ライルは幸せなのか?」
「ああ。なんとかね」
笑うライルの表情に偽りはなく、ティエリアも微笑んだ。
「パパー!」
遠くで叫ぶ声にティエリアが振り返れば子供が二人ライルを呼んでいた。
「今行く」
「……子供?」
「ああ。結婚したんだ」
ティエリアの声にライルは恥ずかしいのか小さく答える。
「そうか。幸せに」
「お前もな」
ライルはそう言うと子供たちの所へと向かっていった。
ティエリアはその背中が見えなくなるまで見つめていた。
to be.....