*carbuncle


Glaring Dream

次の日、やってきた患者はとても綺麗だった。
中性的な顔立ちというのは、こういうことを言うんだろうというくらい整った顔立ちだった。

「初めまして、ティエリア。君の担当になるニール・ディランディだ」
「……よろしく」

そっけなく返される言葉にニールは握手しようと出した手を思わず止めてしまった。

「あ、ああ。よろしく」

笑みは崩さずそう言うとティエリアは少し俯いて黙ってしまった。

「じゃあ、早速、病状について聞いていいかい?」
「情報来てないのか?」
「ああ。来てるよ。来てるけど今の症状も聞いておかないとね」

そう言ってニールは胸の内ポケットからペンと紙を取り出す。

「いつもと、変わらない」
「変わらないとは?」

ティエリアは小さく息を吐いて窓の外を見つめた。

「頭が痛いわけでも、気分が悪いわけでもない。いつもと一緒」
「腹痛とかは?」
「それも……」

突然言葉が切れたと思ってニールが顔を上げるとティエリアの体が傾いた。
慌てて手を伸ばせば、力なくニールの腕の中に収まる。見れば意識を失っている。
ニールは脈拍を確認して、聴診器で胸の音を聞く。特に異常はない。
確かに前触れもなく突然意識を失う。
本人にもその時がいつ訪れるのかがわかっていないようだった。
これは確かにやっかいな症状だとニールはティエリアをベッドに寝かせて頬に触れてみる。体温も正常だ。
しかしこれでは、一人で居させるのは危険だ。
意識を失った場所次第では頭を打って外傷を負う可能性もある。
病院でも起きあがっていたら、ベッドから落ちて頭を打ってしまう。寝ていた方が安全というのは頷ける話だった。
ニールは持っていた紙を切り離し、メモを書き残し病室を後にした。

「ニール」
「イアン医局長」
「どうだい?」

イアンの聞こうとしているのが今日転院してきたティエリアの事を指しているのはわかったのでニールは黙って首を横に振った。

「カルテの通り、突然に意識を失います。本人にもそれがいつなのかがわからないから困るんだと思います」
「そうかぁ……」

イアンは腕を組みどうしたものかと考え込みながら歩き出す。
医者にわからなければ、どうすればいいのかという憤りをきっとティエリアは抱えているはずだ。
症状を教えてくれと言ったときに見せた瞳の色は諦めにも似た色だ。
何度となく繰り返される問診に嫌気が差している態度だ。
もしかすると、この転院は本人にとっての気分転換もあるのかもしれない。
どうせ同じ毎日、病室の中で過ごさなければならないのなら、多少景色が変わった方が良かったのかもしれない。
ニールはそう感じた。
医局に戻って他の患者のカルテを整理しながら、薬の処方を書いていく。
その作業をしながら区切りの良いところで立ち上がる。

「ちょっと診てきます」

イアンにそう声をかけ、医局を出て向かった先はティエリアの病室だ。
ノックして入った病室でティエリアは窓辺に立って外を眺めていた。

「起きたのなら、呼んでくれとメモを残さなかったか」
「別に用がない」
「ティエリアになくとも俺にはあったんだが」
「なら、気にせず来ればいい」

外を眺める視線は動かさず、ニールにそう言う。

「来たときに意識がなかったら申し訳ないが、空いてる時間に様子を見に来る程度になるのだから。いつ来ても同じだろう」

何を見ているのだろうとニールも窓から外を見る。
そこには小児科で入院しているであろう子供が親とともに歩いている。

「治してあげるべき人がたくさん居るのなら、治療できる人を優先した方がいい」
「ティエリアもその一人だろう」
「……治療方法でも見つかったのか?」

ティエリアの視線は外に向いたままだ。
けれど、まっすぐ見つめられているかのようなその質問にニールは答えることが出来ない。

「困らせるつもりはない。どうせ、命に関わる程ではないのだから気にしなくていい」

ティエリアは外から視線を外しベッドへと戻る。

「ただ、自由にならないのが困るだけだ」

そう言いティエリアは横になってしまった。

「周期がわからないから、予測も出来ない。ここに居るしかないのなら、そうしている」
「……」

掛ける言葉がない。現状ではそれが最大の処置だ。

「ただ、願いが叶うのなら……」
「願い?」
「……」

聞き返したが返答がない。
言いたくないのかと声に出そうとしてやめる。
見れば再び意識のないティエリアに気付く。この調子では会話もままならない。
ニールは歯がゆさを感じながら病室を後にした。




to be.....