アイルランドにある墓地。
この場所に訪れるのも、何度目になったのだろうとティエリアは思う。
ヴェーダのデータベースで知る事の出来た家族の名前が刻まれている墓標にあの人の名前はない。
彼の死を知る人間はこの墓標に名を刻む事が出来ない。出来るのは彼のかつての家族だけだ。
彼の死を……伝えなければと思うが、自分には出来ない。自分の立場が邪魔をする。
会ってどう説明していいのかも解らない。
そこまで考えてティエリアは首を振る。
それは言い訳に過ぎない。自分はただ怖いだけ。
話すことで自分の罪が突き付けられるのが、それによって居なくなってしまったあの人を再度、自覚しなければならない。
自分の弱さを受け入れ前を見つめる強さをもう一度……そう自分の命の恩人へと縋ってしまう。
その人を守りたくて、生きていて欲しくて出撃させないように鍵までロックしたのに、彼は家族の仇を取るために出撃し、宇宙に散ってしまった。
思い出すだけで胸が痛む。彼の為に死を覚悟したが、まだ生きている。
今はもう一度来るであろう時の為に残されたメンバーで再建に務めている。彼の目指していた世界になるように。何処かで生きていると信じている他のマイスターの為に。
その決意を再確認する為と理由をつけ、彼が続けていた。お墓参りをティエリアは償いと、沢山のモノを与えてくれたお礼には到底ならないが習慣にしていた。
此処に足を運ぶ時は大抵雨が降っている。
自分の心に降り続いている雨のように―――
「ティエリア」
宇宙へ戻ったティエリアにフェルトが声を掛ける。
「おかえり」
「ああ、ただいま」
笑顔で出迎えるフェルトにティエリアも笑顔を向ける。
「また、地上へ?」
フェルトはすべては問い掛けない。
ティエリアは瞳を閉じることで答える。
「そう」
フェルトにはティエリアが何処へ行っていたのかがなんとなく分かっているようだった。
けれど、それ以上の追求はせずに話題を変える。
「あ、戻ったら顔を出してってイアンが言っていたわ」
「わかった」
頷き、ティエリアはイアンの元へ向かおうと歩き出した。
「ティエリア」
フェルトが行きかけたティエリアの背中に声を掛けた。
振り返りフェルトの言葉を待つ。
「今度、今度地上へ降りるとき、私も一緒に行ってもいい?」
「ああ、構わない」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑んだフェルトにティエリアも目を細めた。
イアンの元へ行く前に着替えてこようと自分の部屋へと向かって制服に着替える。
自分から提案したことなのだが、まだ少し慣れる事が出来ずにいた。
袖を通して気分を切り替える。
今はソレスタルイビーイングの建て直しをしなければならない。
マイスターが今は一人でもきっと生きているはずと連絡の取れない二人を信じている。
その為にも今は前を向いてやれることをやる。
ティエリアは改めて決意した。
.......to be ?