草原に座り、泣き疲れて眠ってしまったティエリアの頭を膝の上に乗せる。
ロックオンはこれまでの事を頭に思い描き、溜息を吐く。
けれども頭の整理がつかなかった。
ロックオンも気が付くとこの草原の中にいた。
ここが【あの世】というものなのかと漠然と思った。
妙に静かな空間。
立ち尽くして、ソレスタルビーイングの事を思う。
一人欠けてしまったマイスター。
ジンクスを手に入れ三つの勢力が一つとなって出来た国連軍に圧倒的に劣勢な体制となっている。
そして一人、自分がいなくなってしまったことを気に病んでしまう人がいるのだろうと、生真面目な人を思う。
また、泣いてしまっているだろうか。
自分は私怨に走って、散った。
彼が気に病むことはない。
けれど、右目の怪我があったからとか、色々な事を悔やんでしまうのだろう。
気になってしまうと、【この世】というものに未練があるのだと感じた。
そして、彼らはどうなったのかが気になった。
すると頭に何かが流れ込んできた。
『私はロックオンの仇を打たなければならない』
聞こえてきたのはティエリアの言葉。
そして気遣うアレルヤの声。
会話からヴァーチェではなく、ナドレでの出撃をするティエリア。
あまり万全ではない態勢にロックオンは唇を噛み締める。
流れてくるものはすべてティエリアの戦闘だった。
体制を崩してしまったナドレに容赦なく降り注ぐビームに機体は破壊されていく。
『まだだ…まだ、死ねるか……』
『計画の為にも…そして、ロックオンの為にもッ!!』
その言葉にロックオンは瞳を閉じた。
何故、流れてくるものはティエリアのものなのだろう。
アレルヤや刹那、プトレマイオスのクルーのものではない。
それが不思議だった。
最後の映像は、コックピットの中で力尽きる前に太陽炉を託すためにナドレから切り離し送り出したティエリアの姿だった。
そして映像はブラックアウトしてしまった。
ティエリアも自分のように事切れてしまったのだろうか。
彼には生きて欲しいと願っていた。
ここにいて、何も出来ずにただ見ているだけだった自分。
とても歯痒いものなのだと実感した。
「まったく、君には困ったものだよ」
突然した声にロックオンは顔を上げる。
そこには髪の短い少年が浮いていた。
見たことのない少年にロックオンは怪訝そうな顔をする。
「ロックオン・ストラトス、君のせいであの子は変わってしまった」
「あの子…?」
ロックオンを見下ろし話し出す。
「ティエリア・アーデだよ」
「ティエリア……」
その表情はただものではない雰囲気が出ていて、ロックオンは構えた。
「ここでは危害を加えることが出来ないからね、そう警戒しないで」
笑顔で告げる少年は確かに危害を加えるような素振りはなかった。
「ほんと、あの子の思いの強さは……」
「…?」
「ここは、あの子の精神世界。君はそこに引き寄せられたんだ」
少年の言葉にロックオンは驚きを隠せなかった。
「精神…」
「それほどに、君の存在が大きかった」
少年はそう言うと視線をロックオンから外し、果てなく続く草原を見つめた。
「君の為に戦うほどにね」
一つ一つの言葉と、先程見つめていた映像が突き刺さる。
ティエリアの行動と言動が少年の言うとおりロックオンの為のものだった。
「彼は僕と同じイノベイター」
「イノ…ベイター…?」
その言葉の意味が分からず困惑する。
「僕はリボンズ・アルマーニ。イオリア・シュヘンベルグの計画を執行するもの」
口だけで笑う少年…リボンズの言葉はロックオンをビックリさせるには充分だった。
そしてそのまま消えようとする。
「ちょ、ちょっと待てっ!」
ロックオンの制止もむなしくリボンズは消えていってしまった。
「な、何なんだよ……」
突然起こった色々な事にロックオンの頭はパニックを起こしていた。
リボンズの言葉が事実なら、ここはティエリアの世界。
ロックオンが『あの世』だと感じていた世界は根本的に違っていた。
そうなると、ティエリアのことしか見えなかった事の説明がつく。
ロックオンはリボンズがいたあたりを見つめる。
今後、ここでどうしたらいいのだろうか。
そんな疑問が頭をかすめた。
.......to be ?