酷く静かな空間だった。
そう思った時にはそこにいた。
ティエリアの前に広がる草原、他には何もない。
空は白みがかった青。
宇宙ではない、けれどティエリアの嫌いな地球の地上でもなかった。
身体に掛かる重力が余り感じられない。
そこには空と草原とティエリアだけだった。
つい先ほどまであったはずの戦いが今はない。
確かに覚えているその出来事が、何か現実味を感じない。
ここが一体何処なのだろう。
思ってはいるが、心の中でここが死後の世界なのではないのだろうかと漠然と感じている。
けれどもこんなにも心もとない所なのだろうか。
そして誰もいない所なのか。
色々思うところはあったが、自分が知りえない場所に来ている。
それは変わることのない事実だった。
いつまでもここに立ちつくしていても仕方がないと思い始めたティエリアは、何かに導かれる様に歩きだした。
誰かに呼ばれたわけではないのだが、どうしてもそちらの方に向かいたくなった。
草原を歩いているはずなのに、足元には草の感触がなくすんなりと歩けた。
陽射しというものもなく、風もない。
歩くという感覚だけがあり、それ以外は何も感じない。
ティエリアは歩きながら、つい先ほどまであった戦闘を思い出した。
ジンクス二機との戦いでナドレは制御不能になり、仲間のもとへ戻ることも困難な状況だった。
まだ終わらない戦いがこの先にも続くことは予想が出来た。
だから、重要な太陽炉を仲間の元へ送ることだった。
幸い、それはあの状況でも行うことができた。
まだ望んだ世界は出来てはいないが、自分の役割はきっと果たすことが出来た。
あのままあそこで事切れたのならば本望だった。
先程だとは感じてでも、事切れてからどのくらい経ったのだろうか。
ふと思えば色々な事を思ってしまう。
あれだけの劣性。
アレルヤや刹那――…
プトレマイオスのクルーは無事だったのだろうか。
あの人のように、そして自分のような結末にはなって欲しくはない。
計画が始ってから、こう思うようになってしまった自分に少し驚いた。
こうやって命を散らすことは計画が始まる前からわかっていたことだった。
そしてそれを覚悟の上で参加した。
それは計画の遂行者ならば全員が覚悟していることだ。
そう思っていた。
自分の変化はあの人の影響。
あの人はこうやって死んだ自分にどんな顔をするのだろう。
会いたいと願い続けた人はここにいるのだろうか。
あの人の為に戦い続けた、こんな自分を彼は迎え入れてくれるのだろうか。
思い始めてしまった心の不安にティエリアの足は止まっていた。