*carbuncle


kitty



公園へ行かなくなったことに気付いたのはアレルヤだった。

「最近、行ってないみたいだけどいいの?」
「ああ。元々俺には関係のないことだったんだ」

ニールの返事にアレルヤは何か言いたそうな顔をしていたが、書類に目を落としてそれを黙殺した。

「昨日、たまたま見たら子猫、居なくなってたよ」

アレルヤの言葉にニールは顔を上げた。
ダンボールごとなくなってたと付け足された言葉にニールは立ち上がる。

「何処へ?」
「公園っ!」

走って向かった公園のその場所には跡形もなく何もなくなっていた。
誰かが通報でもして保健所にでも連れて行かれてしまったのだろうか。
ニールが疑問に思っていると公園の清掃員らしき人が近くを通ったので聞いてみた。

「ああ。あの猫か。君も餌をあげてたのかい?」
「いえ、俺はただ猫がいたなくらいで」
「そうかい。この間ね、ここの公園の管理者が通告してね、面倒見てた男の子が連れていったよ」

男の子というのはティエリアのことだろうか。
ニールはひとまず、ティエリアの元にまだ猫がいるとわかり安堵したが連れていったとしてもティエリアはどこで面倒をみているのだろうかと別の心配が出てきた。

「教えてくれてありがとう」

ニールは時間を確認して、一旦事務所に戻ることにした。

「おかえり」

戻ったニールにアレルヤは声を掛けながら、どうだったのかと聞いてきた。

「公園の管理者に通告されて連れ帰ったらしい」
「じゃあ、ペット禁止の家に持ってったの?」
「いや、そこまでは」
「……そう」

アレルヤも最悪の事態を考えていたのか、子猫が保健所に行ってはいない事がわかると安堵したがニール同様別の心配が浮かんだようだった。
それから数日間、ティエリアとの連絡手段もないので、何も出来ないままだった。



  ** *



「ニール」

書類に目を通していたニールは自分を呼ぶアレルヤの声に顔を上げた。
そしてアレルヤの横にいる人物に驚いた。

「ティエリア」
「事務所の前に居たんだ」

アレルヤは経緯を説明してティエリアを応接に通した。
ティエリアの手には公園にあったダンボールと中には子猫がいた。

「公園に行ったら何もなくなってたから心配したんだよ」

アレルヤがティエリアの持っているダンボールを示し、優しく声を掛けるがティエリアは無言のままだ。
ファミレスでの接客姿が遠い人のように感じるくらい何も話さない。

「僕はお茶を入れてくるよ」

ニールを応接に入れてアレルヤは席を外すように応接から出ていった。
ニールは応接のソファに座りティエリアを見つめる。ティエリアはダンボールを膝の上に乗せたまま俯いたままだ。

「何か用があったんじゃないのか?」

名刺に書いてあった住所を頼りにここまで来たのだろう。
ニールに声を掛けられたティエリアの体が強ばったのがわかった。

「ごめんなさい」
「ん?」
「どうしたらいいのか、わからなくなった」

俯いたまま話し出したティエリアの言葉は小さかった。

「公園がダメと言われ、家に連れ帰ったけど、大家さんに追い出すと言われてバイト先にしばらく置いてもらったけど、食品を扱うからと今日引き取って……」
「それで俺の所に来たのか?」

自身の可能な限り子猫を置いておけないかと画策したが、結局何処もダメだったという。
大方予想通りの展開だと思いながら、ティエリアには他に頼れるところはないのかと思う。

「あ、あのっ……」

行き場を失って最後の最後に出てきたのがニールだったのだろうか。
弁護士という地位を利用してのものなのかそれとも事情を知ってるから良くしてくれるだろうとでも思ったのだろうか。
こういうときに仕事の口調になってしまってはいけないと思うのだが、場所が事務所だというのもあり思考がいつもより理性的になってしまう。

「ここに来ても、何もしてあげられないぞ」

ちょうどお茶を入れて戻ってきたアレルヤがニールの言葉に驚いていた。

「ちょっと、ニールッ」
「自身で面倒が見れそうにないからとすぐに他人に頼るくらいならはじめから面倒なんて見なければ良かったんじゃないか?」

アレルヤの制止を無視して言葉を続ける。
生き物を飼うという責任をしっかりと教えないといけないと思ってしまっていた。

「……失礼しました」

ニールの言葉にそれだけ返すとティエリアは頭を下げて出ていこうと立ち上がる。
その仕草にアレルヤが慌てて止めようとするが、ティエリアは横をすり抜けて応接を出て事務所を後にした。

「ちょっと、ニールッ」
「当然のことだろう。無責任に世話を始めるからこうなるんだ」
「そりゃ、そうだけど。あの子はニールを頼りに来たんだろう?」
「弁護士だからだろう?」

ティエリアはニールが弁護士だということを知っていた。だから来たのだとニールは思っていた。世間的にも弁護士は強い立場にある。そして正義の味方のように思える。
あのくらいの年齢ならそう思っても仕方ないだろう。きっちりと世間を教えないととニールは思ったのだ。
たった一回の情けが人をダメにする。

「あの子は、弁護士を頼りに来たんじゃなくて、ニールを頼りに来てたのに」

アレルヤの必死の言葉にニールは顔を上げた。アレルヤの話だと、昨日の夜も来ていたという。
手元にあったダンボールで公園の子だと気付いたアレルヤはニールが今晩は事務所に帰ってこないことを告げると一礼して帰っていったという。
昨日、来た格好のまま今日も外にいたというティエリアに今日は事務所にいるからと声を掛けたが、仕事中だから迷惑はかけられないと断ったという。

『何か話したいことがあるんじゃないの?』
『個人的な話だから』

そう言って、去っていこうとしまったティエリアを止めて大丈夫だからと無理矢理事務所に連れてきたというアレルヤにニールは目を見開いた。

「それをあんな事務的に帰しちゃって」

ティエリアの座っていた席を痛ましげに見つめる。
ここに来るのだって悩んだ末のことだろうと続けるアレルヤにニールは驚いた。

「そんなにティエリアの援護して、どうしたんだ?」
「……知り合いに似てるから。一人で無理をし続けてダメだと思って誰かに頼りたいと思うけどうまくできない」

アレルヤのその知り合いが今の彼女なのだろうと思うのに時間はかからなかった。

「結局、一人で無理をし続けるんだ。確かに大人としての見解も必要だけどああやって一人でいる子に優しくしたって良いと思うよ」

アレルヤの言葉に外に出て追いかけようかと思ったが次のクライアントの所へ行かなければならない時間だと気付き急いで準備した。






to be.....