弁護士という職業柄、休日という休日がカレンダー通りにならないのは仕方がない。
そんな中、久々に貰った休日をどうやって過ごせばいいのかニールは頭を悩ませていた。
家にいても仕方がないと外へ出る。
けれど、目的もないので何処へ行けばいいのかニールは歩き出しながら考える。
ひとまず昼食を取りに行こうと考え浮かんだのが先日入ったファミリーレストランだった。
久々に入って食事をしたが思いの外、ハンバーグが美味しかったので機会があったらまた行こうと思っていた。
地下鉄に乗り、事務所に向かうみたいだなといつもとは違う時間帯で服装もスーツではなく私服なのが変な感じだと少しおもしろく思えたりもしてニールは地下鉄を降りた。
ニールは休日でも世間は仕事をしていて、スーツ姿の人が多い中、ニールはのんびりオフィス街を歩いていた。
見えたファミレスにニールは店内に入る。
深夜とは違い、店内は非常に混み合っていた。席を待ってい客はなかったが、フロアにある席には空いている席を探すのが大変なほど賑わっていた。
「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」
「ああ」
声を掛けてきたのは明るい声で接客する女の子だった。
見ればフロアには女性の店員が多く、客の要望に応えていた。
これが本来のファミレスの姿だよなと思いながらニールは店内の様子を見た。
フロアには五人の女性が注文を取ったり、席を綺麗にしたり料理を運んだりと動いている。
今日は深夜勤務していたティエリアはいないのかと、少し残念だなとニールは思っていた。
やはり、深夜勤務中心なんだろうなとニールは漠然と思いながら注文をした。
昼食を取った後、ニールは近くの公園へ向かった。
近くにあるのにも関わらず、ニールは入ったことはなかったなと思いながら公園内を歩く。
真ん中に大きな池のある公園内は散歩をする人や、子供連れがいたりして、近くにオフィス街があるとは思えなかった。
緑が生い茂る公園内は時間の流れがゆっくりとしていた。
今度、仕事の合間の休憩はこの公園がいいと思いながらあいていたベンチに腰掛けた。
久々に忙殺された日々から解放されニールは瞳を閉じて深く息を吐いた。
明日からまた忙しくなるんだったと、忘れそうな現実を思い出す。
明日のためにも早く帰宅して休むことにしようと思ったニールは自宅へ帰ろうと歩きだした。
「ごめんね」
ふと聞こえた声にニールは歩きだそうとした足を止めた。
「みゃ」
声の方を見ると、段ボールの箱の中に手を入れている人の姿が見えた。
ここにペットを捨てるのかと思ったニールは近づいていった。
「ペットは捨てちゃダメだぞ」
「……っ」
ニールの言葉に驚いた人は体をビクッと震わせてニールを見た。
「あ」
「あ……」
顔を見てニールは驚いた。
「ティエリア」
「に、ニール……」
そこにいたのは、先日ファミレスで再会したティエリアだった。
「その猫……」
「この間から、ここに居るんだ」
この猫はティエリアが今から捨てようとしていたのではなく、先日からこの公園に捨てられていたのだという。
ティエリアは放ってはおけずこうして餌を持ってきては食べさせていたということだった。
「家で飼えばいいじゃねぇか」
「ペット禁止なんだ」
餌を食べ終えた猫を撫でながらティエリアが残念そうに呟く。
「このままここで餌を与え続けるわけにもいかないだろう」
「……わかっている」
ニールの言葉にティエリアは俯く。
本当ならばティエリアは家へと連れ帰って面倒をみたいんだろうが、自宅はペット禁止となっていては、無理だということはニールもわかっていた。
けれど、ここで餌を与え続けるのも無責任だ。
「同情だけではどうにもならないことくらい、わかっている」
ティエリアは聞こえるか聞こえないかの声で呟いて、立ち上がる。
「時間だ」
そう言って、走り出してしまった。
その背中を見つめニールは足下に置かれたままの段ボールの中にいる子猫を見つめる。
子猫はニールと目が合うと小さく鳴いた。
それからニールは、時間が空くと公園へ足を運び子猫の居る場所へと向かった。
ティエリアはファミレスのシフトの関係か居たり居なかったりだったが、毎日欠かさず来ているようだった。ニールはそれを少し距離を置いてただ見ていた。
変な予感がしたのは三日間ほど雨が降り続いていた日のことだ。
クライアントと会った後、事務所へ戻る途中、雨が降り続いていたせいで遠のいていた公園へ行ってみようと思い、一緒にいたアレルヤに公園を通って戻ろうと提案した。
「もしかして、休憩時間にいなかったのはこの公園に来ていたのかい?」
「ああ。ちょっと気になることがあってな」
雨が降っていても、木々っが生い茂る下に置いてある段ボールに雨はさほど降り掛からないだろうと思っていた。
けれど、ニールの想像とは違い、段ボールの側に大きな傘が置いてあり、雨が当たらないようになっていた。
しかも中を覗きこめばタオルが追加されていて寒くないようにされていた。
「ニールが面倒見てるの?」
「いや、俺じゃねぇ」
そう思われても仕方がないほどここには通っているが、子猫にここまで出来るほど自分は優しくない。
子猫は雨が降っているのも知らないかのように、すやすやと眠っていた。
「こんなにして、家で飼えばいいのに」
アレルヤの言葉の通りだ。こんなに可愛がるなら飼えばいい。
何度、そう言おうと思ったかわからない。飼えないのなら飼える所へ引っ越しをするのも一つの方法だ。
「行こう」
「いいの?」
気遣うアレルヤにニールは俺が面倒を見ているわけじゃないともう一度言った。
歩きだして前から傘も差さずに雨合羽一枚で入ってくる人影が見えた。
見ればティエリアで、向こうもニールだと気付いたがそのまま無言で横を通っていった。
アレルヤも不思議に思ったようで走り去ったティエリアの行く先を見ていた。案の定、あの猫の元だったようで、アレルヤはニールに問いかける。
「あの子が面倒見てるの?」
「ああ」
「よっぽど可愛いんだね。自分の傘をさして雨の中あんなに走っていくなんて」
確かに、一つしかないであろう傘を子猫の為に使い、毎日通って様子を見に行く。
情があったってそうそう出来るものではない。
「あのくらいだと、家の人にでも反対されてるのかな」
「いや、ペット禁止なんだと」
「じゃあ、一人暮らしなのかな。それじゃあ、経済的にも簡単に引っ越しは出来ないね」
アレルヤの言葉にニールは奥歯をかみしめる。
「ニールが飼ってあげれば?」
「は?」
「だって、あの子と知り合いなんでしょ?」
「いや、知り合いというほど知っている訳じゃ」
「そうなんだ。こんなに気にしてるから、知り合いなのかと思った」
確かにここまで、ニールが気にする事はない。
ティエリアとはたまたまぶつかった相手というだけで、ファミレスで偶然再会したがそれだけの間柄だ。彼があそこで働いている以外の生活習慣をニールは一切知らない。
今日で最後にしようとニールは心に決めた。
to be.....